比翼仕立て、カモフラージュ柄の裏付きジャケットの発売を開始しました。
今回もデザイン、設計、縫製までの全工程を自社にて行った製品になります。とは言っても生地の製作やボタン、糸など付属類の製作は自分で行っている訳ではないので、料理でいうと農家さんや畜産家さんから食材を調達して、料理の部分のみ全て担当したというのが正しいです。
Fly Frontとは日本語で比翼仕立てのことで、パーツを二重にして前開きを隠しボタン仕様にすることです。
生地は久しぶりにカモフラージュ柄を使用しています。柄とディテールがごちゃつかないよう表面を極力シンプルに仕立てたかったので、比翼仕立てやポケットを隠し仕様にしてディテールが目立たないようにデザインしています。
裏地がフリースなので程よく暖かく、肌触りも柔らかくなっています。
アウターとして製作していますが、タブを止めて袖口をしぼるとシャツに近い感覚でも着用可能なので、春秋はTシャツの上から羽織るような着用の仕方も良いかと思います。
4Cウッドランドカモフラージュ柄(綿100%)、3Cデザートカモフラージュ(綿50%ナイロン%50%)の2色展開になります。
ウッドランドカモ柄生地は現行の日本製です。
デザートカモ柄生地はデッドストック品(生産国不明)ですが、こだわって昔の生地を買い付けた訳ではなく、知りゆる生地屋さんを全て廻ったのですがデザートカモ柄だけ生産されていなかった(定番の柄なのですが人気が無いのかな、、)ので、仕方がないのでデッドストックの生地を使用しています。未使用保管されていたので新品ではあります。
※追記
2019年に再生産しました3Cデザートカモフラージュ柄は現行新品のリップストップ生地(綿100%)になります。
ちなみに4C、3Cとは4COLOR、3COLORの略で、カモフラージュ柄を何色で構成しているかという意味です。例えばウッドランドカモ柄はブラウン、カーキ、グリーン、ブラックの4色で構成されています。
大枠のデザインに関しては僕が着ていたA-2デッキジャケット(ググって見て下さい)という米海軍艦上用のジャケットをベースにBDUジャケット(ググって見て下さい)という野戦服のディテール(比翼や袖)を繁雑化させ取り入れてデザインしています。
前回のカーゴパンツに続きどこかの軍物にありそうだな、、と作った自分でも思ってしまうような凡庸デザインですが、服で特定されたり認識させたりする事が少し苦手で、どちらかというと街路樹のような風景の一部として気にならないくらいの見え方が好きなので、そんなデザインが出来ればと思って製作しています。
シルエットに関して、身頃は脇のシェイプを減らし、裾も平行のボックス型のシルエットを構築しています。動きづらくない程度にやや長めの着丈に設計しています。
アームホールは大きく、袖口はやや広く、衿先は開き気味に設定し、フーディ等厚めのインナーを着用時窮屈にならないよう設計しています。
大体のデザインは頭の中で決まっていても、実際はパターン(設計図)を書きながら、適切なデザインをはめていき完成形に近づけていきます。これはシルエットに対してディテールの配置がおかしくなったり、無理にデザインをはめ込む事を避ける為です。なので頭で考えていたデザインとはかなり違う出来上がりになる事もあります。
背面は何のデザインもなく、シルエットはボックス(箱型)です。これも上記で述べた柄物なのでデザインを加えて視覚がごちゃつくのを避ける為です。柄物の生地を使用する際は極力柄を活かしたいと思っています。
背面から見るとアームホールが大きい事が分かって頂けると思いますが、袖周りは人体的に複雑な立体として形になるので、ゆとりがあっても微妙なラインの違いで見た目や着心地に影響するので毎回良く考えて設計している部分になります。
脇下の腰タブでウエストのサイズ調整が出来ます。片側で4cm、左右両方で8cm程しぼれます。
タブの先が細丸くなっている形状に特に意味はないのですが、このような形のパーツはカーブと細丸を出す為に形状を整える工程があり、その工程が個人的に好きで縫製が楽しいからという理由でこの形にしています。
前開きは比翼仕立てといって、パーツを二重にして前開きを隠しボタン仕立てにしています。
BDUジャケットの前開きも比翼仕立てで、比翼になるパーツを裏から簡単に縫い付けた略比翼という仕立てになっているのですが、今回製作したジャケットは裏地付きなので、比翼と裏地の繋がりを考えると縫製的に略比翼は採用出来なかったので、本比翼仕立てというフォーマルなコートなどに良く使用される仕立てにしています。本比翼仕立ての方が縫製工程が多いですが、表も裏もキレイな仕上げになります。
また前開きの生地が二重になっているので防風の効果があります。たかだか生地が二重くらいで?と思われるかもしれませんが、僕はバイクに乗っているのですが強風を受ける程その効果を実感しています。
この本比翼仕立ては昔から使われている仕立てですが、自分で設計(パターン)や縫製をしてみて良く考えて作られているなといつも感心しています。本比翼仕立てに限らず、ずっと使用され続けている仕立て(仕様)は必要性に駆られて必然的に生み出されたのだと思いますが、このような仕立て自体を初めにデザインした方の情報はほとんどない事が残念です。
余談ですが、フォークの歯はなぜ四本になったかという本の中でファスナー(ジッパー)は機械技師のホイットコム・ジャクソンという方が1893年にクラスプ・ロッカーという名前で初めて靴用のファスナーを特許申請した後、G・サンドバックという方に研究が引き継がれて、1912年にほぼ現在使われている形状のファスナーを特許申請されたと記述されていたのですが、完成まで約20年間もファスナーとファスナー自体を製作する機械の製作も含めて、失敗を繰り返し試行錯誤した過程が紹介されています。
この過程の中で形は機能に從うのではなく、形は失敗に從うという理論を導き出されていた話が面白くて、物は違えど例えば比翼など長く使用され続けている形状や仕立ては、製作した方の情報があればどのような失敗をして今使われている形になったのか?、細かい機能が失敗により後付けになった製品を使う事で生活にどのような影響が及んだのか?など形と機能の関係性が必然性から外れた所で色々分かるのかもしれないと思い、情報がない事が余計に残念です。表面上のデザインではなくパーツや道具にヒントがある気がしています。
右片玉縁ポケット内部に見返しと呼ばれるパーツと、ポケットになる布(スレキと言います)の切り替え部分を利用したジッパー開閉の隠しポケット(右側のみ)を付けています。
手の差し込みと物の収納を分けてポケット内をすっきりさせる目的と、物落ち防止の用途としてオリジナルで考えたディテールです。ポケットに手を差し込んだ時の甲側はフリースになっているので防寒の効果もあります。ジッパーは見える位置にありませんが指先の感覚でスライダー(取っ手)を掴んで開閉出来るので使いづらさはないと思います。
オリジナルのディテールと言っても先ほどの比翼のように既に確立されている基本のディテール(片玉縁ポケット、切り替え利用、ジッパー利用)を組み合わせて応用し、それを付け加える場所を見つけただけです。片玉縁を利用した隠しポケットはデザインは違えど既に確立されたディテールがあるのですが、この組み合わせと配置のディテールは無いと思うのでオリジナルとしています。
現在服は人間の体の形状や、仕事など目的に沿った事を無視して装飾するか、または新素材や新パーツが登場してそれに合わせてデザインするなどしない限り、過去のデザインや縫製方法の積み重ねで完璧な仕立てが既にあるので、例えばジャケットならば・・・ボタン開き+パッチポケット+立ち襟+生地コーデュロイのような組み合わせを変えて計算していけば、全ての組み合わせを羅列する事は可能だと思います。答えが決まっている中でどうやって隙間を見つけて装飾ではないディテールを組み込めるかが自分の中での服のデザインの方法の一つです。
どのようにして製作したかはDIY ARCHIVESよりご覧になれます。
裏の右内ポケットは、ジッパー付きコインポケット、ペン差し、鍵掛けDカン付きのツインポケット(大きなポケットに小さなポケットを重ねたデザイン)仕様になっています。
こちらもオリジナルのディテールですが、既にある基本の仕様を新たに組み合わせ応用したオリジナルディテールです。前に作ったデニムジャケットの内ポケットに近しいですが、小ポケットの作りを新たに考えて製作しました。
小ポケットを大ポケットに縫い付ける際、スタンプの左下からステッチミシンをスタートし直上、そのままファスナーテープを止め、更に周囲まで一発で縫い切ります。これは縫製時間短縮と出来るだけミニマムな外見になるように考えた縫製方法です。 その縫い目(ステッチミシン)をそのまま利用してペン差しとジッパー付きコインポケットを分けて形にしています。 ファスナーテープの上部をそのままフタとして使用しているので、フタ用の生地、縫製を必要としないので無駄が少なくなっています。余りに時間がかかる作りにするとコストが合わなかったり、やり過ぎて外観を崩してしまう事があるので注意しながらデザインするようにしています。
既にあるディテールのパターン(設計図)の製作を折り紙に例えてみると、鶴のパターンが欲しいとしたら、出来上がった鶴を見て頭の中で解体し、平面の紙に戻しながら折り目を縫い目として記録するような作業なのですが、鶴は作り方が確立しているので折り方さえ覚えていれば可能です。
また上記の内ポケットや、ジッパー開閉の隠しポケットなど自分で考えたけれど作り方が確立していないパターン製作を折り紙に例えてみると、未知の生物、例えば麒麟を作りたいとしても折り方が確立していないので、平面の紙から麒麟を作るにはどう折れば良いか?何枚いるのか?など、頭の中で麒麟を折り上げる過程を考えて記録するような作業になります。
日本には美と技が一体化した美術品や物が多いですが、技術(目的)が前にあって尚且つ美しくあるものを成立させるのは非常に難しいと思います。そういったものを過去の歴史から見つけては参考にしてはいるのですが中々難しいです。。
裏の左前内にペットボトル等が収納可能なポケット付きです。
ペットボトルよりポケットを少し小さく設計しておくことで、差し込んだ時にフリースの伸縮性の縮みが働きしっかりと収まります。
ディテールを沢山入れ込んでいるのは、日常の生活の中で手に持ちそうな物を収納出来て手ぶらで移動出来ればという思いからです。
ディテールを使用していない時に特殊なデザインの服に見えないように、またディテールが邪魔にならないような位置に配置して製作しています。
前身頃を開いた写真です。
前に製作したデニムジャケットのディテールより簡易化された内ポケットになっています。簡易化した分、軽量化されています。
内ポケット(ツインポケット)とジッパー開閉の隠しポケットが右身頃側で、フリースポケットが左身頃側なのは、左身頃に比翼や胸ポケットがあるので片方に偏らないように配置した結果で右利き用という訳ではありません。
胸ポケットはフラップ付きのパッチポケットです。
フラップは隠しマジックテープでの開閉で、表からはマジックテープが見えないように出来ています。前開きが比翼の隠しボタン仕立てなので、胸ポケットも合わせて隠し仕立てにしています。ボタンではなくマジックテープを使用したのは開閉のスピードアップの為です。
衿先は開き気味でフラットな形状に設計しました。
衿先が閉じ気味で立体的な形状だとフォーマルなイメージがあるので、いつも開き気味でフラットな衿を設計してしまうクセがあるのですが、開き気味でフラットな衿はインナーにフーディを着用した時、衿が邪魔にならずにフーディの首元が見えるので、外観的にも好みな形状です。
袖口は切り替えを利用してタブを挟んでいます。
通常状態ではインナーを着用した際、袖口が窮屈にならないように広めの袖口に設計していますが、タブを使ってボタンを付け替えると袖口巾がシャツの袖口程度に絞れるので、春秋はTシャツの上にシャツとして羽織る着方もおすすめです。
ボタンを付ける位置や数は大体で決めているのではなく、デザインの1つとしてどのように見えるか、どのように使用するのかを考えて設計しています。
今回の袖の切り替え自体に意味はないのですが、用尺といって生地を裁断する際にパターンを出来るだけ詰めて配置し、無駄な生地を使わないように計算する工程があるのですが、大きなパターンは詰めづらいので、袖のように分割しても良いパターンは切り替えて二つにする事により配置しやすくしています。
デザインでもなく、用途でもなく、作業上の工程の都合がそのまま服に反映されていますが、この工程で生地の使用量が減るので少々ですが価格が抑えられます。
ボタンにはM.O.C.ltdのMil.Spec.復刻、尿素樹脂BDUボタン(艶なし)を使用しています。
日本のボタン製造会社も同型(Mil.Spec.復刻ではない)を販売していて、過去はそちらの会社のBDUボタンを使用していたのですが、沢山発注すると値段がほぼ同額だったので今回はMil.Spec.復刻のBDUボタンを使用しています。
復刻やスペックにはあまり興味がないのですが、実際に目で見るとMil.Spec.復刻の方が雰囲気はあります。ですが気にしたり自慢したりする程ではなく普通です。僕は何よりシンプルで丸々としているデザインが気に入っています。
BDUボタンは縁高ボタンというボタンを元にして、戦闘時の強度不足解消の為に厚さを増して行き今の形状に至ったらしいです。実際にこのBDUボタン付きの服を着て思いっきり転けてボタンを地面にぶつけた事がありますが、傷だけで割れませんでした。5mmも厚みがあって簡単に割れては困りますが、予期せぬ実験で謳い文句通り強度がある事が分かりました。
171cm / 62kg / Size S 着用です。
171cm / 62kg / Size M 着用です。
S、Mサイズ共に袖口のタブを閉めて着用しています。インナーはTシャツ1枚のみです。
特にコーディネートする事もないので、ルックというかディテールの説明の写真と動画です。ディテールが写真では上手に伝えられないと感じていたので動画を撮ってみました。
量産縫製までやっている目的は色々あるのですが、一番は新たな気付きがある点で、その一つに工場で縫製する場合は工場にあるルールやチェックポイントに合わせ、ミスを避けたいのでセオリーを重視するのですが、自分で縫製する場合は自分のルールや自分のチェックポイントが基準になるので固定概念に縛られなくなったという点があります。
服の縫製はある程度答えが決まっているので、その答え通りの指示を工場に出せば間違いは無いのですが、答えまでの導きが何故そうなっているか未だに理解しがたい所があり、例えば各々が逆にカーブしている二枚を縫い合わせる事があるのですが、それを縫えばこう出来上がるという答えは元々用意されていても、何故そうなるのかの過程が僕には設計図上では理解出来ない事があり、この何故?の部分が縫製を繰り返す事によって理解出来る時があります。そのような何故?の部分に新しいデザインのヒントを感じるので縫製している部分が大きいです。ちなみにDIYが良いと思っている訳ではありません。
固執してしつこく観察した事をレポートするというのは、性格の悪さをだだ漏らししているのを自分でも感じるのですが、、自分の服に興味を持って来て下さるお客様に、この文章の情報もデザインの中の1つとして捉えて頂く為に書いています。
よろしくお願いします。