Fly Front Jacket
Fly Front Oolong Jacketの製作過程を作図、仮縫い、サイズ展開、フルパターン、縫製、仕上げの順に平面の紙、一枚の布から服が出来るまでの工程を紹介します。
作図です。Lサイズを基準に後々サイズ展開するので、元型はLサイズで身頃、袖、衿、ポケット位置、シルエットなどを書き込んで行きます。
先程の作図をトワルという布地に写し取り、上の写真のように一度服の状態まで簡易的に縫い合わせて着用(仮縫い)し、歪み、シルエット、ポケットの位置などが良いかどうか確認して修正点があれば、この作業を何度も繰り返します。シルエットやポケットの位置はデザインでもあるので使いやすさと外見のバランスを考えて決めていきます。
仮縫いで修正点がなくなったら、修正した点や新しく決めたシルエットの線を作図に新たに書き込んだ後、服の裏地の作図をしていきます。上の写真は袖の裏地の作図です。裏地は表地と重なる事で外回り分が足りなったり、表地の種類や縮み、固さなども踏まえて計算して作図をしていきます。人体には複雑な凹凸があり、特に袖周りや衿周りは計算とシルエットが合致していないと服として成り立たなくなります。
作図を新しい紙に写し取り、その内部に縫製の手順などを記述した後、縫い合わせる時に必要な縫い代という余白を周囲に書き込み正式な型紙を制作する事を、フルパターンと呼びます。その後縫い代の極をカットしたものが上の写真です。
このフルパターンを使用して本番の生地、手順でサンプルを制作し実際に出来上がりを着てみないと分からない動作、デザインの確認をしていきます。
上の写真が出来上がった1stサンプルです。修正する点などは着込まないと分からないので普段の生活で一ヶ月程着用しています。修正するに至ったのは、胸ポケットのフラップ部分の形状変更(角を削った方が開きやすかった)、衿内のブランドタグ付けの土台(三角形で縫いつける場所が柔らかいフリースなのは難しく縫製に時間がかかる)、肩玉縁ポケット内部の隠しポケットのマジックテープ開閉は使いづらい)の3点でした。
縫製面、使いやすさの修正点が作図時の平面では分からなかったのですが、立体にする事により分かるようになります。この修正した箇所を再びパターンに書き込んでいきます。
サンプル制作で修正が終わったのでサイズ展開をしていきます。サイズ展開の事をグレーディングと呼びます。上の写真は身頃のグレーディングになります。
S,Mサイズの寸法を決め、ピッチ方式という方法で各パーツをSとMサイズに展開していきます。これにより元型のLのシルエットそのままに各サイズは縮小されています。ですがSサイズなど身頃が小さく丈が短くなる事で元型と差が出すぎると、ディテールの位置が合わなくなってくる事もあるので、そういった場合は元型を無視して良い位置を探し、全体のバランスが崩れないようにフリーハンドで修正することもあります。
その後、S,Mサイズもフルパターンを制作して、サンプルを作り修正点が無ければ量産に入っていきます。
量産です。まず生地、接着芯の裁断から始めます。
生地には地の目という方向があり、それは生地端の直線の事でこれを縦とします。地の目から垂直方向を横とします。縦は伸び、横は伸びないので各パーツの適性を元に地の目に合わせて裁断していきます。斜めにパーツを裁断するバイアス取りという方法もありますが、今回は必要ありません。縦横がずれて裁断すると出来上がりが美しくないので裁断は簡単に見えて気を使う作業です。
工場で行う場合は大きな裁断機や自動裁断機を使用するので上の通りではないです。
上の写真で30着分になります。
主に使用する60番手の糸です。60番手は中厚の生地に使用する定番の番手です。糸の太さもデザインの一部で、60番手より太い糸は存在感がありますし強度が高いので良く使用しますが、今回は比翼のジャケットで、ボタンを見せないなどシンプルな見た目にデザインしているので、糸も目立たせたくなかったので60番手を使用しています。
また使用する糸の太さや、生地の厚みによってミシンの針の太さも変わってきますが、今回は60番手に合わせて11番という中厚生地用の針を使用しています。
量産では一着づつではなくパーツ毎に全着分、一気に縫製していきます。
またどのような縫製手順で縫えば最短で出来るのか、難しい縫製箇所の縫製方法などを文章と写真でまとめた工程分析表を作り、それに従って縫製していきます。
上の写真はサンプル制作時にメモを取りながら作った文章の工程分析の一部で今回のジャケットでは、大きく分けると29の工程があります。
工場生産の場合、工程分析は工場さんが決めることが多いので必要ないですが、自分で縫製するには時間のコストを考慮すると確実に必要なことです。
縫製前に接着芯と呼ばれる生地の型崩れを防いだり、厚み、固さを持たせて補強する材料を貼り付けます。
接着芯にも種類は沢山あり、今回作るジャケットはカジュアルなので、あまりカチッとし過ぎないよう程よい張りのある中厚の接着芯を使用しています。
まず、細かいパーツから縫製していきます。
ポケットフラップ(蓋)、胸ポケットにマジックテープを縫い付けておきます。
先に縫い付ける理由は、出来上がった表面上ではマジックテープが縫ってある事が分からないようにする隠し縫いというデザインの為です。
2枚のフラップ用生地を、中が表で縫い合わせ角をカットしておきます。
角をカットするのは、表に返した時に角に布地が集中して綺麗に返らない事を防ぐ為です。カットしておくと布地が角に集中せずに綺麗に返ってきます。
表に帰して形状をアイロンで整えたら、ステッチミシンをかけてフラップ制作は完了です。
上の写真は裏側を写したものですが、表から見ると隠し縫いによりマジックテープが付いている事が分からなくなっています。
胸ポケットは、縫い代を三つ折りにしてステッチミシンをかけて完成です。
袖口タブ、腰タブを制作していきます。
袖口、腰タブは長さが違いますが同じ形状、縫製方法なので袖口タブのみ縫製手順を掲載します。
2枚のタブ生地を中が表で縫い合わせ、表に返した時に生地が重なりそうな箇所、角をカットしておきます。
表に返してアイロンで形状を整えたら、周囲に2本ステッチミシンをかけます。
ハトメ穴という先が丸く膨らんだボタンホールを開けます。主に大きく厚みのあるボタンを使用する場合、生地に厚みがある場合などに使用します。
ボタン直径が18.8mm、ボタンの厚みが3mm程なので直径と厚みを足して21.8mm程のボタンホールを開けています。これは厚み分量を加算しないとボタンホールをボタンが通過しないことがあり得るからです。
これで袖口、腰タブは完成です。
胸ポケットを身頃に縫いつける為に、縫い代をアイロンで整えます。
上の写真のように小さなカーブはフリーハンドのアイロンでは上手く形を整えられないので、厚紙を出来上がりの形状に切って紙定規を作り、そのガイドラインに沿ってアイロンで縫い代を整えていきます。
一気に紙定規に合わせて縫い代を畳めば良いわけではなく、手前2〜3mmを徐々にアイロンで潰していき、ある程度畳んだ時どこに縫い代が分散するか確認した後、縫い代が1箇所に固まらないように全ての縫い代を畳みます。
熱で縮みが発生しやすい生地を扱う場合は、アイロンのテクニックが高くないと上手に形状を作ることは難しいです。
身頃に胸ポケットを縫い付けます。
ポケットの極を1mmステッチミシンで縫い止めて完成です。
片玉縁ポケットを制作していきます。
その前に右片玉縁ポケット内の手の差し込みと、物の収納を分ける為に考案したセパレートファスナーポケットを制作していきます。(サンプル製作時はマジックテープ開きの隠しポケット仕様だった所を修正した箇所です。)
上の写真はセパレートファスナーポケットに必要なパーツです。
袋布と呼ばれるパーツの生地端に、ロックミシンと呼ばれる生地のほつれを防止するミシンをかけて処理します。
この袋布は手を差し込んだ時の手のひら側に当たる部分になります。(袋布は3枚使用するので、この袋布を仮に袋布Aとします。)
先程の袋布Aに見返しと呼ばれるポケットの、入り口すぐに当たるパーツを縫い付けます。
見返しを付けて袋布と切替えす理由は、ポケット入り口は負荷がかかりやすいので袋布の生地では耐久性が足りないのとポケットを開いた時に袋布が見えては見栄えが悪いからです。
中間が空いているのは、そこに後にファスナーを付けてもう一つのポケット口にする為です。
先程縫いわせた袋布Aと見返しの縫い代を裏からアイロンで割り、空けておいた箇所にファスナーを縫い付けます。上の写真は縫い付け後ですが、ファスナーがズレないようにピン止めし周囲を5mm間隔で縫い付けています。
表から見た写真です。
ファ スナーは金属ファスナーを使用しています。着用し手を差し込んだ際、感覚でファスナーを開け閉め出来るように、長さがあり自由な方向に動かせて掴みやすいチェーンリング型の引き手を使用しています。
糸の色を袋布Aの色に変えて、袋布Aの倒した縫い代をステッチで止めます。
再び糸の色を戻して、もう一枚の袋布Bを袋布Aの裏から合わせてぐるりと1周5mmステッチで縫い止めます。
袋布Bはセパレートファスナーポケットに手を差し込んだ時に、手のひら側に当たる部分になります。
見返し側の縫い代をステッチで止めます。
これでファスナー以外に開ける所は無くなり、ポケットとして機能出来るようになります。
裏から見た写真です。
これで片玉縁ポケット内部のセパレートファスナーポケットは完成です。次はこれ自体を袋布として使用し片玉縁ポケットを制作していきます。
※左片玉縁ポケットにはセパレートファスナーポケットは無いので、上記で説明した仕様は省いて一枚の袋布と見返しを縫い合わせただけのパーツを使用します。
片玉縁ポケットを制作していきます。
まずポケットの縁になる部分の裏側に接着芯を貼ります。
この接着芯は切り込みを入れたり、生地の重なりで負担のかかる縁部分の補強の為です。
表に返して玉縁となる箇所に、チャコペンと呼ばれる消せる鉛筆でガイドラインとなる線を引きます。
そのガイドラインに合わせて玉縁になる玉縁布を半分に折って開かないよう縦横ステッチミシンで止めたパーツを、出来上がりが合う位置で合わせてステッチミシンで縫い止めます。
先程制作した、セパレートファスナーポケット(袋布兼用)を玉縁布と向かい合わせて、玉縁の出来上がりが合う位置で合わせてステッチミシンで縫い止めます。
裏に返して先程縫い付け た表の玉縁布、セパレートファスナーポケットを避けて玉縁の中心に切り込み、端は矢羽根上に切り込みます。
切り込みを入れた縫い代をアイロンで折ります。
三角部分はしっかりと、他は片玉縁の形状になってからしっかりアイロンをかけるので、今は軽くアイロンしておきます。